2015年10月7日水曜日

第4回 福島県産業医学研修会 胸部単純写真の読み方 ーヒヤリハット画像を振り返るー

平成27年9月16日 ホテルサンルート白河 第4回 福島県産業医学研修会において、「胸部単純写真の読み方 ーヒヤリハット画像を振り返るー」というテーマで、実地研修を含む約2時間の講演を担当させていただきました。参加された先生方も熱心にディスカッションに加わっていただき、講師としてもたいへん気持ちよく話をさせていただきました。

○健常肺 既存構造を読む
健常肺からなるべくたくさんの解剖構造を拾う
人の眼は投影画像から何を拾えるのか? 濃度の異なるもの / その境界 線 / 点
正常既存構造を読む 体表面・衣服 骨格 胸壁・胸膜 心大血管
障害陰影を透視して肺実質を読む(体内の空気の立体的配置)
肺区域の広がり 肺葉の広がり
単純写真は肺野の全体像の把握に有用
主軸系と側枝系 主軸系:外層 側枝系:内層
HRCTで描出される肺構造 X線で見える肺の構造
○撮影技術
読影を始める前に 適正なポジショニングで撮影されている 適正な呼吸位相で撮影されている 肺紋理(末梢肺野の血管影)が読める 心臓や横隔膜に重複する肺野の血管が読める
何を拾うか? 濃度異常(境界明瞭・不明瞭・パターン) 解剖学的にありえない「線」 大きさの異常(縮小・膨張・偏位・胸水・気胸) 見えるべきものが見えない 見えないはずのものが見える
○肺癌検診の読影
構造物と重なる肺実質の部位を理解する 立体的な広がりを想像する
淡い濃度上昇に注意する 左右差・上下差を読む
過去画像と比較する 陰影の出現がわかりやすい C判定(有所見・精検不要)か否か?
胸部単純写真の死角
胸部写真の読影法
•上腹部•胸郭:右肺底から右胸郭を上へ、左胸郭を上から左肺底へ•縦隔:輪郭・気管・気管分岐部・大動脈・心臓・肺門•肺① :右肺底から右肺尖へ、左肺尖から左肺底へ•肺②:左右比較しながら肺底から肺尖へ
解剖構造を念頭に読影する
•気管・気管支•胸郭の最外層を上下に比較•左右比較•死角(鎖骨・第一肋骨、心臓の裏、横隔膜裏)
肺がん検診要精検におけるCTの役割
•単純写真異常所見に対する病的所見の有無の確認(約9割はCTのみで非病的所見と確認できる)•異常陰影の質的診断(約1割)•単純写真所見へのフィードバック•CTによる肺全体のスクリーニング•肺癌以外の呼吸器疾患の検出•生活習慣是正のきっかけ
結節との鑑別が必要な非病的構造 乳頭 肋骨肋軟骨部の骨化 肋骨(骨折後・骨島・変形) 椎体の骨棘・側弯 傍心脂肪 腕頭動脈蛇行 食道裂孔ヘルニア 胸膜石灰化
肺癌検診の読影 かくれんぼする肺癌 見えにくい肺癌
中枢病変による末梢の変化
○結核・感染症
•大葉(肺胞)性肺炎:肺炎球菌・クレブシェラ・レジオネラ•気管支肺炎:マイコプラズマ・インフルエンザ桿菌・黄色ブドウ球菌・緑膿菌
•肉芽形成慢性感染:結核・NTM・クリプトコッカス
○職業性肺疾患
職業性肺疾患の多くは重喫煙者
珪肺の画像所見 珪肺 上肺背側 粉じんのクリアランスが悪い 細気管支に線維化病変を形成 リンパ流によるクリアランス:胸膜直下に移動 粒状影の癒合:塊状線維化(PMF) 縦隔リンパ節:卵殻状石灰化 
石綿肺の画像所見 アスベスト暴露 低濃度暴露でも胸膜プラークが生じる 石綿肺は高濃度暴露で生じる 細気管支周囲に沈着:周囲炎から線維化 気道から直線的に下肺に達するため下葉背側優位に分布・蜂巣肺:IPFに似る 胸膜プラーク・びまん性胸膜肥厚などの胸膜病変が多い 胸膜下線状影 胸膜中皮腫 癌性胸膜炎 腺癌
溶接工肺 酸化鉄ヒュームの吸入 結節形成はきたさない マクロファージに貪食された鉄沈着と弱い線維化 中下肺優位に左右均等に分布する大きさのそろった柔らかい小粒状影 細気管支周囲の分枝状影+周囲のすりガラス状影
○COPD
タバコ煙を主とする有害物質を長期間吸入暴露することにより生じた肺の炎症性疾患 気腫型COPD(肺胞破壊)非気腫型COPD(中枢気道主体の炎症)肺気腫症の画像診断 肺胞構造の破壊による過膨張と肺血管床の減少 過膨張所見:横隔膜平定化・胸骨後腔の透過性亢進(側面像) 呼吸運動制限 肋間腔拡大 血管影の減少:肺野が明るい・枯れ枝状・肺紋理減少 心陰影のスリム化:滴状心 肺門部肺動脈影の拡大 CT画像での低濃度域
○救急疾患 迅速な判断を要する肺疾患 
•重篤な症状がある場合•心血管疾患(大動脈疾患・肺動脈血栓塞栓)•気胸•気道閉塞•蔓延の危険性がある感染(結核)
○まとめ 胸部単純X線写真の読影テクニック


•胸部写真には立体構造がすべて投影されています したがって、過去の写真を振り返ると何らかの微小所見に気づくことがあります もちろん感度と特異度を考えて所見を拾わなければなりませんが、過去の微小所見をヒヤリハット所見ととらえて読影力向上の足掛かりにする習慣が重要です 所見のウラを取り(最終診断・CT画像との比較)、画像の成り立ちを推理することが役に立ちます 日常診療においては経時的比較がたいへん重要です


会の終了後は、本会を企画された先生方とホテルサンルート白河 和食処「和(なごみ)」でゆっくりとお話をお聞きすることができました。いい気分になって、新白河の終電で帰福しました。

参考文献
臨床画像 2011年4月号 びまん性肺疾患:これだけは押さえておきたいHRCT診断の基本
画像診断 2003年1月号 職業、環境因子とびまん性肺疾患
臨床画像 2012年9月号 肉芽腫性病変:その病態と画像 -結核からネコひっかき病まで-
長尾大志 やさしイイ胸部画像教室  日本医事新報社 2014

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