○ ジャーナリズムの危機
映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、原題のThe Postが示す通り、ワシントン・ポスト紙のジャーナリスト気質がテーマである。
ダニエル・エルズバーグは米国防総省(ペンタゴン)のランド研究所で軍事アナリストをしていたが、1971年3月、約7千ページもの機密文書を持ち出し、内部告発した。ベトナム戦争での米国の軍事行動について、トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン政権時代の政府が国民に嘘の説明をしていたことを明らかにする文書である。エルズバーグは文書をニューヨーク・タイムズ紙に持ち込む。当時のニクソン政権は激怒し、「国家安全保障を脅かす」という理由で公表中止を求め、連邦裁は掲載中止の仮処分命令を出す。急遽、同文書を入手したワシントン・ポスト紙は、社内での激論の末、社主のキャサリン・グラハムが政府に真向から逆らい、報道する決断をした。その結果、全米の報道の自由の気運が盛り上がり、最高裁は掲載中止の命令を無効とした。報道を受け、ベトナム反戦運動も盛り上がった。
スピルバーグの社会派映画は悪意なく、わかりやすく善良なストーリーが語られる。本作もその一つである。報道機関に対する国家の圧力は、ドラマや小説でちょくちょく耳にするフレーズであるが、この映画でも現実感に乏しい。山崎豊子『運命の人』は沖縄返還時の日米密約を題材にした小説である。1971年の沖縄返還協定に関する取材で入手した機密情報を記事にした新聞記者らが国家公務員法違反で有罪となるストーリーである。日米の国家は異なるが、まったく同時期の事件である。実際の事件に基づいて書かれている。ここでは、国家が見せしめのために、冷徹に個人を犠牲にするさまが描かれる。個人の秘匿を露呈し、人生の相当部分を奪う。国家が牙を剥いた時の怖さが描かれている。
わが国では、国家権力に対するジャーナリズムの力(特に映画で描かれたような共通の理念を持つジャーナリズムの集団としての結束)が少ない。国家の暴走を止められずにいる現在の米国やわが国の状況は当時と比較してジャーナリズムの力が抑えられているのかもしれない。BS民放5局特別企画 池上彰の5夜連続BIG対談 笑いのスペシャリストビートたけしとの対談(3月21日(水) 夜8時から)では、「テレビは死んだのか?」というテーマで2時間の対談が放送された。テレビはスポンサーがお金を出す。お笑いでもそのスポンサー関連のマイナス部分のことを言えなくなる。縛りが強くなってきて、パイの投げ合いをやると下に(テロップで)「この後、スタッフでおいしくいただきました」って出るんですよ。と・・・。生放送では気を使う。録画の場合は編集でカットされる。そのような放送の規制に風穴を開けたのが、豊田議員の「このハゲ!」ですよね。公共の電波で堂々と流されたのは嬉しかった。普通、ぴーってかからないとおかしいでしょう。言っていいんだと・・・。現在のメディアの自己規制に対する皮肉・毒舌が(編集後ではあるが)随所に見られたが、たけしがメディアに登場したころのヤバい言葉が連発するコントが現在では放送禁止用語の連発になってしまっていると実感させられる。バラエティばかり見ているせいかもしれないが、ジャーナリスト気質を感じさせるTV番組は少ない。
文書改竄問題を報道した朝日新聞に善良な気質を感じる。NHKスペシャル 未解決事件File.06 赤報隊事件 2018/01/27 は、1987年5月3日、朝日新聞阪神支局に目出し帽の男が進入し散弾銃を発砲し、記者2名が死傷した事件のルポルタージュである。その後、全国各地の朝日新聞関連施設を襲撃、爆破未遂、そして中曽根・竹下元首相への脅迫や、リクルート元会長宅への銃撃など事件は全国に拡大した。この事件は“暴力による言論抑圧”であると同時に、ジャーナリズムに対する不信である。直接、”権力に対するテロ"へつながって行った。
○ 政府の嘘
堤 未果「政府は必ず嘘をつく 増補版」を改めて読みなおすと、「情報操作により国民の支配を行う」ということが国家権力の基本ということを実感する。多少の嘘は見破られるが、大々的な嘘はわかりにくい。志の高い善良な内部告発者とジャーナリズムが権力の目付役であろう。国家は国民を侮ることはできない。そして、われわれ国民一人一人が感じる「違和感」こそが重要なアンテナである。
ペンタゴンペーパー事件の後、1972年6月17日、ワシントンのウォーターゲートビルで働く警備員が建物のドアに奇妙なテープが貼られていることに気付き、首都警察に通報した。5人組の男が民主党全国委員会本部オフィスへの不法侵入の罪で逮捕された。その裁判の中で感じるジャーナリストたちの違和感が「ウォーターゲート事件」へ繋がっていく。
ペンタゴンペーパ事件の続きは映画「大統領の陰謀」で・・・。権力に戦いを挑む普通の人々が描かれている。また、内部告発側の視点で、「ザ・シークレットマン」が制作されている 。
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