2021年10月、漫画『カムイ伝 』などの白土三平氏が8日に誤嚥(ごえん)性肺炎、その弟で作画を担当した岡本鉄二氏が12日に間質性肺炎で亡くなられました。
白土三平といえば、『サスケ』や『忍者武芸帳・影丸伝』『カムイ伝』など多くの忍者漫画で有名です。その特徴は、それまでの魔術のような忍術を廃し、科学的な裏付けを明確に表現しました。『サスケ』や『ワタリ』『カムイ外伝』などに登場する忍者たちの、それぞれの技の解説がドキュメンタリー番組のナレーションのようにストーリーの隙間に挟み込まれる構成に心躍らせたものです。『カムイ伝 』ではカムイは主人公ではなく、狂言回しのような役回りでもあるのですが、その中で秘術、変移抜刀霞斬り・飯綱落としを編み出す過程を克明に描いています。いま読み直しても納得します。
また、個々の登場人物の行動の必然を徹底的に描くことで、権力志向と階級闘争を「生物が普遍的に有している必然」として描き切りました。人間のドラマと野生動物のドラマを交互に描くことで、いろいろ想像を掻き立てられます。
また、どの絵を見ても習字や水墨画を思わせる筆致です。一枚の絵の中で躍動する動きを描く手法も出色です。緻密な取材や自然の中での経験に裏付けられた膨大な知識・博学・情報が単純化された絵の中に凝集されています。
『忍者武芸帳・影丸伝』の領主に対抗する忍者集団の首領・影丸の「われわれはどこから来て、どこへ行くのか」という言葉は、まさに歴史の流れの中での波や淀みを言い当てているのではないかと思います。『忍者武芸帳』は1959年から1962年まで全17巻が刊行されました。20代後半の頃ですので、人の行動を冷静な目で観察し、勢いのある筆致で表現する作風が当時からすでに完成されていたのでしょう。
残念ながらカムイ伝第3部を目にすることはできませんでした。11月の連休に一気読みしようと、カムイ伝第1部と数冊の評論本を注文しました。