2015年2月11日水曜日

第153回 肺癌・呼吸器疾患勉強会 いわき市 2015年1月30日

肺癌の画像診断 一般臨床におけるCTの役割 一般財団法人 大原綜合病院 森谷浩史

 CTはその分解能の高さとデータの扱いやすさから呼吸器診療のさまざまな場面で活用されている。本講演ではCTと胸部X線写真について概説したのち、症例を通してCT画像から胸部単純写真の所見を読み解いてゆく。

1.呼吸器疾患に対するCTの役割
 呼吸器疾患に対するCTの役割として、(1)有症状例に対する質的診断、(2)単純写真異常所見に対する病的所見の有無の確認、(3)検診・健診(肺がん検診・人間ドックなど)、(4)疾患例に対する進展度・治療効果・経過観察などがある。
 CTは空間分解能・時間分解能が向上している。スライス厚が薄いほど個々のvoxelの体積が小さくなり、小構造を体軸方向に分解できる。現在一般的になっている0.5mm~1mm程度のスライス厚を用いる場合、構成するvoxelがほぼ立方体となるため、精細な3次元立体画像・MPR(任意断面再構成)が得られる。コンピュータの高性能化により日常臨床で簡便に3次元画像が利用できる環境になっている。
 このような高分解能CTでは肺の二次小葉が描出されるため、病変の小葉に対する態度を分析することが胸部CT読影の基本である。すなわち、肺小葉構造を破壊する病変なのか経気道性に波及する病変なのかを読み解くことが重要である。そのためには、CTのデータを立体的に再構築するMPR(任意断面再構成)が極めて有用である。
 一方で、胸部単純写真の限界としては縦隔や心陰影・横隔膜下の腹腔陰影など死角に重複投影される肺領域がある。撮影体位や呼吸位相の違いで指摘困難になる場合もある。また、早期腺癌のような含気型の病変はコントラストがつかないため描出されない場合がある。このようなことから、検診・健診(肺がん検診・人間ドックなど)へのCTの導入も広まっている。繰り返しCTによる肺癌検診により、CT群の肺癌死亡率が胸部写真群(対照)の肺癌死亡率に比較して20%低下したとするNational  Lung  Screening Trial;NLSTの報告もCT検診の普及に追い風となっている。さらに、CT機器の技術的進歩により被ばく低減技術が大きく進歩したことも追い風である。各社の最新のCT技術は単純写真程度の被ばくでの胸部CT撮影を可能にしている。
 当院における肺癌CT検診の条件設定は、東芝AquilionONE、スキャン方式:helical scan (64列)、helical pitch45(beam pitch 1.41)、スキャン条件:120kV, 20mA (7mAs) ~40mA (14mAs)、0.35s/rotation, 1.0mmx32, 再構成条件:逐次近似応用再構成(AIDR3D)、1mm-section, FC52/FC13(hybrid), FOV320mmとしている。線量設定の目安は、小柄・60kg程度以下・痩せ型~標準体型:20mA、大柄・60kg程度以上・肥満体型:40mA としている。肺がんCT検診では読影の負担が大きいため、専門医読影のほかに、コンピュータを使った自動診断(Infinitt Xelis lung)を試験的に利用している。

2.胸部単純写真を用いた肺がん検診
 死角の見落としを防ぐために解剖構造を念頭に読影する必要がある。気管・気管支、胸郭の最外層を上下に比較、肺野・肺門の左右比較、正面写真の死角(鎖骨・第一肋骨、心臓の裏、横隔膜裏)を読影する。肺の解剖学的広がりを読影する上での単純写真上の解剖学的目印を考慮しておくことが有効である。
 ABCDE判定は、A:撮影条件不良・再撮影、B:異常なし・1年後検診受診、C:有所見・精検不要・粗大石灰化・以前から同様に認める胸膜肥厚など・1年後検診受診、D・E:精密検査を必要とするものと判定する。E:肺癌を疑う、D:肺癌以外の疾患を疑う、と判定するが、肺癌検診の精度管理上は、E判定からの発見肺癌が検診システムの評価に用いられる。したがって、D判定、E判定は以下のような基準となる。
 D1:活動性結核を疑う(治療が必要な・・・)
 D2:非結核性の活動性肺炎を疑う(治療が必要な・・・)
 D3:精密検査を要する心疾患・循環器疾患(治療が必要な・・・)
 D4:胸膜疾患・縦隔疾患
 E1:肺癌を否定できない  なにも異常がないかもしれないが、微小肺癌を否定はできない(異常陰影自体がないかもしれない)
 E2:肺癌を強く疑う     結節や異常陰影がある(何か陰影はある)
 判定には過去画像と比較することが重要である。経時的比較により、新たに出現した陰影の指摘が容易・C判定(有所見・精検不要・1年後検診受診でよい)か否か?の判断が容易となる。
 近年、単純写真撮影がデジタル画像に移行してきている。デジタル画像の利点としては、画像の切り替えが容易、拡大・諧調調整・輪郭強調・白黒反転、過去画像との比較が容易、2画面の連動などがある。福島市では25年度から個別検診の一部にデジタル読影を導入した。スタートに当たって協力医療機関への確認・周知事項として、以下の事項をあげさせていただいた。
1.過去画像(昨年分)も含めてデジタルデータで提出できること。フィルムとの混在は不可。
2.CDまたはDVDにて提出できること。
3.画像記載のIDは病院の患者識別IDを用いていること(過去画像もIDが同一となる運用を行っていること)。
4.データには受診者のみ過去画像も含めて書き込むこと。他のデータを入れることなく出力できること。
5.CD・DVDの自動起動ソフトは入れない、もしくは、起動させない設定とすること
6.DICOMの標準的仕様に準拠した「患者情報の記載」に変更していただく場合があること。
7.デジタル読影に不具合がある場合、翌週までにフィルムでの再提出ができること。
8.今回のデジタル化試行をお願いする医療機関に対し、放射線技師などデジタル画像の取り扱いに慣れた職員に読影会時の操作の協力をお願いしたいので、推薦していただきたい。

3.症例呈示
症例1 肋骨の限局性骨硬化像(骨島)
 結節との鑑別が必要な非病的構造として、乳頭・肋骨肋軟骨部の骨化・肋骨(骨折後・骨島・変形)・椎体の骨棘・側弯・傍心脂肪・腕頭動脈蛇行・食道裂孔ヘルニア・胸膜石灰化などがある。CTの大きな臨床的役割として、単純写真異常所見に対する病的所見の有無の確認がある。X線写真のみで所見なしと言い切れない場合に、病変の有無を確認できる。病的所見の成り立ちを明らかにすることで、健常例であることを再確認することが大きな目的であるが、想定外の病変を偶発的に拾い上げる場合がある。
症例2 パンコースト型肺癌
 症状が遷延する場合に肺癌を疑ってみる必要がある。CTにより有症状例の病態が明らかになる場合が多い。
症例3 交通外傷 前頭部・前胸部打撲 前胸部痛
 矢状断MPRにより胸骨骨折が診断できた。CTの利点として3次元分析画像がある。
症例4 労作時呼吸困難 過敏性肺臓炎
症例5 咳嗽 気管支異物
 CTは気道異物の確認に有用である。
症例6 咳嗽 扁平上被弾
 心陰影の背後に隠れる結節(扁平上皮癌)により下行大動脈のシルエットが消失している。
症例7 肺尖部陰影 腺癌
 検診胸部写真で異常陰影を指摘された。肺尖部の鎖骨・第一肋骨と重複投影される領域は胸部写真読影の見落としの多い部位であり、また、偽陽性の多い部位でもある。
症例8 微小陰影 腺癌
 検診胸部写真で異常陰影を指摘された。肺がんの術前画像診断として、呼吸CTにて癒着の有無を判断し、造影CTにて胸腔鏡下肺葉切除術前の3DCTA画像(肺動静脈・気管支分岐を立体表示する)を作成する。
症例9 咳嗽 息切れ 扁平上皮癌
 左上葉気管支の閉塞による上葉無気肺である。完成された無気肺は単純写真で一見、正常に見える場合があるので注意が必要である。太い気道の肺癌の検出には喀痰細胞診が有効である。
症例10 食思不振 肺腺癌
 単純写真で胸膜のひきつれを指摘された。CTでは同部に収束を有するスリガラス濃度結節を認め、肺腺癌であった。術前病期診断のためのFDG-PET検査では肺癌部分に軽度の集積を認めたが、同時に胃体上部小弯側に高度集積を認めた。胃癌であった。
症例11 検診で陰影指摘。神経鞘腫
 造影MRI検査にて椎間孔の内外に突出するダンベル形状の腫瘍であった。MRIは縦隔腫瘍・胸壁腫瘍・充実性肺結節の性状診断に有効である。Bronchogenic cyst・Abscess・Lipoma・Hematoma・造影による過誤腫の脳回状構造などの特異的所見を得られる場合がある。

まとめ
 一般呼吸器臨床におけるCTの役割について症例を中心に呈示した。CTは健常例であることの再確認・想定外の病変の拾い上げ・3次元画像による病態の確認などに有効である。

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