2023年7月2日日曜日

果しなき欲望

果しなき欲望 The Endless Desire 配給:日活 劇場公開日:1958年11月19日
これは面白い。まるで韓国映画だ。時価六千万円のモルヒネ発掘をめぐって、欲につかれた人間の醜さ滑稽さを描くスリラー・コメディ。オール読物所載藤原審爾の原作を、鈴木敏郎・今村昌平が脚色、今村昌平が監督した。
八月十五日--ある駅のホーム。胸に星のマークをつけた五人の奇妙な人物が集った。彼等の目的は終戦の日に、軍医橋本中尉がこの町の防空壕に埋めたモルヒネを掘出すことだった。橋本中尉は十年後に従卒三人と山分すると約束していた。集った五人。すでに死亡した橋本中尉の妹と称する妖艶な女志麻。薬剤師の中田、大阪の中華料理店主大沼、ヤクザの山本、それに中学校の教師と名乗る沢井。それは約束より一人余計だった。目的の防空壕の場所には肉屋が建っていた。彼等は二十米離れた所の空屋を不動産会社の名目で借り、地下を防空壕まで掘ることにした。強欲な家主金造は長男悟を雇わせる条件で家を貸した。五人は工事費を作るため一たん帰郷した。抜けがけを狙う大沼は一足先に帰って沢井と組もうとしたので、中田や志麻との間が険悪になった。ところが帰阪した山本が強盗を犯したため、四人は急いで穴を掘り始めた。悟は肉屋の娘リュウ子と恋仲で、男達は二人の密会をみて刺戟され、志麻に挑んだ。男達をハネつけた志麻は一番穴を掘った者に自分をやるといった。男達は奮起して穴を掘り進める。祭りの夜、疲労困憊した男達が町内会にただ酒を飲みに行く。リュウ子と痴話喧嘩した悟は志麻に誘惑された。その時、突如山本が現れ、彼女に躍りかかった。山本は脱走してきたのだった。再開発のため彼等の家を含む商店街が後五日で壊わされることになった。山本も加わり穴掘り作業が進められる。立ち退き前夜、反目し合っていた山本と沢井が格闘し、沢井は山本を殺した。立ち退き当日、遂に穴掘りが肉屋の下に来た時、沢井はドラム缶を発見した。が、落ちて来たドラム缶の下敷きになって惨死した。志麻は何も知らない悟に一緒に逃げようとそそのかす。大雨となり商店街の取り壊し作業は順延される。その夜、中田は大沼に興信所からの調査書を読んで聞かす。橋本中尉は他殺の疑いが有り、中尉の内妻だった志麻とその情夫中田が逮捕されるも容疑不十分で釈放されたとあった。余計な一人は中田だった。中田はナイフで大沼を脅し、自分が多分な分け前を受ける様に約束させる。志麻は毒入りのビールを大沼に飲ませて殺した。毒に気づいた中田だが志麻に包丁で刺殺される。これをみた悟は急を町内に知らせた。豪雨の中を志麻はモルヒネを持って逃げた。が、警察に追いつめられ、工事中の橋の上から逆まく川に落ちて死んだ。翌朝、川におびただしい死魚が浮いて、その白い腹を初秋の陽射しにさらした。
ずいぶん昔に見たことがあったが、改めて見るとテンポが速くとても面白いサスペンスコメディである。いわくありげなそれぞれの人物が、戯画化され性格が書き分けられており、わかりやすい。当時のドヤ街・下町の雰囲気が興味深く、印象としてはボンジュノの殺人の追憶・母なる証明を連想した。ボンジュノの映画はこの頃の日本映画(今村昌平や黒澤明)の基本的な映画文法を忠実に受け継いでいるように感じる。
監督 今村昌平 脚色 鈴木敏郎 原作 藤原審爾 企画 大塚和 撮影 姫田真佐久 美術 中村公彦 音楽 黛敏郎 録音 沼倉範夫 照明 岩木保夫 編集 丹治睦夫
長門裕之 中原早苗 西村晃  殿山泰司 小沢昭一 加藤武 渡辺美佐子    菅井一郎    高品格 河上信夫 三崎千恵子 柳沢真一 芦田伸介 秋津礼二

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