安部元首相の暗殺事件で犯人がアパートの部屋にこもり武器を自作していたことが報道されました。映画タクシードライバーのトラビスを真っ先に連想しました。
ベトナム帰還兵の不眠症の若者が社会のひずみを是正しようと黙々と武器を準備し、まず、市長候補者の演説会に向かいますが、SPに目を付けられ断念します。そののち少女売春の組織に矛先を変えて、一人で乗り込み壊滅させてしまう。自身も死を覚悟していた様子でしたが生き延びて、町のヒーローになる。そんなストーリーです。社会生活になじめず、精神に変調を来しても、なお、強力な殺戮能力を持った多数の若者がアメリカに産み出されているということが、疑問なく理解できました。
大好きな映画の一つです。当時、わが国でも、この映画を模倣した数々の映画が作られました。エネルギーを持て余した孤独な若者が武器を作るというプロットです。テロではなく、また、多くは不発弾で終わりましたが、コミュニケーションできない若者の短絡的行動の一つのパターンだったと思います。多くの映画製作者たちが漠然としたイメージとして持っていたパターンだったのではないでしょうか。わが国には従軍経験のある若者や殺傷能力を持つ武器がありませんので現実感がありませんでした。
今回の事件は、様々な経緯があり単純に重ね合わせられるものではありませんが、安部元首相の訃報と事件の経緯が、このような暴力行為の重大さの現実と取り返しのつかない「痛み」を国民に突きつけたことは間違いありません。現在、生活の中にあふれる夥しい量の映像(フィクションもノンフィクションも)からは、痛みの実感のない「暴力のイメージ」が作られてしまいます。「暴力」による痛みや喪失の実感がないことはとても危険なことだと思います。
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