近年のAIコンピュータ技術の進歩により、画像診断における利活用も始まっています。
先日、知人の呼吸器内科の先生から質問がありましたので、お答えした内容について簡単に記しておきたいと思います。(これは2024年秋の時点での個人的な経験の範囲での私見です。)
◯ 質問内容(原文から具体的名称を削除し、文章を短縮しています。)
最近、レントゲン画像から異常を拾い上げるAIシステムについて質問されたことがあります。異常がある部位を指摘し、精密検査の必要性をスコア化する、 医師の診断補助としての役割のようです。現状では、あくまで診断補助であり、その部分を拾い上げた理由(例、浸潤影、すりガラス陰影、結節など)も明示されません。
1.肺がん検診において、 このような画像診断補助システムは有用なのでしょうか、また、 すでに実装されているのでしょうか?
2.臨床現場で、 呼吸器以外の主訴の患者の胸部レントゲンで偶発的に異常 を指摘された場合には、精査をすべきかどうか、どう判断すればよいでしょうか? AIが指摘したものを全例CTを撮るのは、やりすぎのようにも思います。たとえば、喫煙歴がある50歳以上の男性で、 一度も胸部CTをとったことがなければ、 胸部CTを提案してもよいと思う、というような対応でいいでしょうか?
3.過去にAIが指摘していた場所に将来、重篤な疾患が生じた場合、AI判定を優先すべきだったと指摘されるようなことが増えるのではないでしょうか?
◯ 回答内容
1.胸部写真のAI診断については、 検診医療機関で導入している施設がぽつりぽつり出てきています。私自身も一部で利用しています。
基本的な立ち位置としては、メーカーも0.5 次読影と言っているように、半人前の診断です。所見の部位を指摘してくれますが、現段階の機能では肋骨骨端や血管などの指摘が多く、逆に異常影を指摘できない場合も多いです。人間の読影とは異なる目線で拾ってくれるので、へーと思えるような微妙な所見を拾ってくれていることもあります。違う基準で拾ってくれる読影医が増えた印象です。
読影の際に常に参照できるような仕組みにする方法や、 一次二次読影が終了したあとの合同判定の際に参照すると言うよう なことが検討されています。検診の場での利用は、複数の人間とAIを含めた合議制として使われていると思います。
2.臨床の場合は、 AIと臨床医との1対1の判断になると思いますので、非専門医の場合は AI判定に引っ張られてしまうと思います。疲れを知らずに淡々と作業するのがAIの強みだと思います。判定がブレませんので、専門医が気づかなかった所見を拾ってくれることもあります。その反面、重大な所見を拾わないことも多々あります。
AIの判定は、拾い上げの基準をあげたり、 下げたりすることが機械的に可能ですので、AIの判定は 腫瘍マーカーのカットオフ値のような意味合いだと考えています。そういう意味では、現在のAIの活用法としては専門医の補助診断(AI判定を加味することで専門医の判定精度を高めること)であろうと思います。
非専門医も同様にAI判定を加味して改めて胸部写真を眺めることで総合的診断精度を高めることが見込めると思います。AI判定に関して判断できない場合は専門医と相談するのがよいと思います。
3.AI判定は統計学的な頻度で線引きされますので、基準を下げれば、多くの場所を指摘するし、基準を上げれば指摘しなくなります。偽陽性を持ってAIメーカーを責めることもできないでしょうし、偽陰性を持って責めることもできないでしょう。AI判定によらず、専門医の目で所見が指摘できるかどうかが最終的なジャッジになると思います。今のところ胸部単純写真については、専門医の判定よりAI判定を優先することのほうが、臨床的に危険であろうと思います。胸部CTや脳MRAなどの、目的を絞り込んだAIにはかなり役に立つものが登場していますので、胸部写真のAIもますます進化すると思います。能力と限界を理解することで、診断精度を高めるために活用できると思います。
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