2022年1月1日土曜日

肺腺癌の発生と進展,わかったこと,わからないこと

第62回日本肺癌学会学術集会 会長企画シンポジウムは野口 雅之会長の肺腺癌の組織発生研究の歴史と将来の展望を基礎研究から臨床研究まで網羅した大変贅沢な企画でした。
1時間半で小型腺癌の概要を窺うことができる好企画です。ひさしぶりに肺癌学会の面白さを体感できました。
 
第62回日本肺癌学会学術集会 会長企画シンポジウム 肺腺癌の発生と進展,わかったこと,わからないこと 2021-11-27 13:20 - 14:50 第1会場 | パシフィコ横浜 ノース 1F G7+G8
[座長] 淺村 尚生(慶應義塾大学医学部外科学(呼吸器)[座長] 楠本 昌彦(国立がん研究センター中央病院放射線診断科)
PSY-1 肺腺癌の組織発生と初期悪性化 [演者] 野口 雅之:筑波大学医学医療系
ゴッドフリー・ハウンズヒールドらがコンピュータ断層撮影(CT)技術を開発して1972年にノーベル・医学生理学賞を受賞したが,その後CT技術は飛躍的に進歩した.特に肺野末梢に発生する肺腺癌の発見,診断には絶大な威力を示している.私自身は1982年に筑波大学を卒業し,国立がんセンターに在籍中,CTを用いて発見される小型の肺腺癌をたくさん診断する機会を得た.もっとも我々病理医はCTの出現の前から,異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia, AAH)という微小な病変が切除肺に時々見つかり,肺腺癌の前癌病変ではないかと考えていた.ただ,AAHが過形成性の病変なのか異形成的な前癌病変なのかの議論の決着はつかずにいた.その後,CT検診などで,AAHと小型肺腺癌をつなぐ上皮内肺腺癌(adenocarcinoma in situ)や微少浸潤性肺腺癌(minimally invasive adenocarcinoma)が見つかる様になって,少なくとも一定の割合の肺腺癌ではAAHからAIS,MIAを経る増悪経路が示された.この悪性化を時間軸で証明した柿沼龍太郎先生の仕事は歴史的な業績だと思う(JTO, 2016).またその間,谷田部恭先生が末梢発生の腺癌の母地がTerminal respiratory unitであることを示し,肺腺癌の組織発生を詳細に研究することが可能になった(Am J Surg Pathol, 2002).私自身も国立がんセンター病理部に在籍していた頃,小型腺癌を多数調べその予後と組織型を検討し小型肺腺癌の組織分類(野口分類)を発表し(Cancer, 1995),その後この分類を基盤に肺腺癌の組織発生機序の解明に取り組んできた.本講演では私たちのグループでの研究内容を中心に肺腺癌の組織発生研究の歴史と将来の展望をお話ししたい.
PSY-2 肺がんと遺伝子,わかったこと,わからないこと [演者] 河野 隆志:国立がん研究センター研究所ゲノム生物
肺がん,特に,肺腺がんはがん遺伝子の変異がドライバーとなり肺がん発生を引き起こし,がん形質の維持にも働いている.そのため,分子標的薬によるドライバー遺伝子機能の抑制は遺伝子によらず有用な治療手段となる.EGFR遺伝子の変異はその代表であるが,エクソン19欠失(15塩基欠失が代表)変異やL858(T→G)変異がなぜアジア人,非喫煙者の肺に生じやすいのか,次世代シークエンスを用いた変異signature解析が進んだ今でも,そのメカニズムは不明である.HLA遺伝子型が腫瘍細胞免疫的排除に個人差をもたらすことでその発生を促している可能性があり,EGFR変異陽性肺がんが免疫チェックポイント阻害治療に不応であることと関連しているのかもしれない.一方EGFR変異陽性の肺腺がんはラテンアメリカにも多発し,ネイティブアメリカンの遺伝的背景が一役を担うようである.ドライバーがん遺伝子変異は上皮内がんより観察されるが,それだけでは臨床がんになるには不十分で,TP53がん抑制遺伝子の失活変異が加わることが必要となる.その他にも数多の遺伝子変化が肺がんでは観察され,それら(の一部)はドライバー遺伝子変異を獲得した初期がん細胞のクローン選択に役立っていると考えられる.これらの遺伝子変化の情報は,周術期や薬物治療における患者の経過予測に役立つと期待される.しかしながら,肺がんの遺伝子変化は患者間で極めて不均一であり,ドライバー変異に肩を並べるようなバイオマーカーを特定するには至っていない.本講演機会を頂き,「肺がんと遺伝子」についてわかったこと,わからないことについて,自分なりに整理してお話ししたい.
PSY-3 早期肺癌に対する外科治療に関するエビデンス [演者] 鈴木 健司:順天堂大学呼吸器外科
およそ半世紀前の1960年,北米の呼吸器外科医であったCahanが肺葉切除を肺癌に対する標準治療として推奨する報告をするまで,安定した結果をもたらす肺癌に対する外科治療は肺全摘術とされた.その後麻酔科領域での分離肺換気法が開発されたこともあり肺葉切除は安全な術式として定着した.1980年代の後半に3cm以下の小型肺がんに対する標準術式として肺実質を温存する縮小切除を標準とすることができないかという命題を検証すべく臨床試験が行われた.今では外科が関わる第三相試験も珍しくないが,その当時としては極めて異例に行われた第三相試験であった.最終的には肺葉切除が予後と局所コントロールの観点から標準とされた.余談ながらその生存曲線は術後3年まではほぼ一致している.この時点で主任研究者のGinsbergが「この結果をもって縮小切除が今後の標準治療となるだろう」と学会で発言しているのが記録として残っている.1995年にこの報告がなされたのとほぼ同時に肺野末梢に存在する肺腺癌におけるin-situ carcinomaを定義する報告がなされた.所謂,Noguchi分類と言われたこの報告をもとに本邦では同じstage IAの肺癌でもその悪性度を治療前にgradingして治療の強度,つまり切除範囲を変更しようとする流れが生まれた.術後に判明する病理診断の基準を切除前にどのように利用するかという議論が1990年代の後半に学術会議において盛んに行われていた.丁度その頃,薄切胸部CTがavailableとなり,画像と病理の対比に関する研究が行われた.JCOG0201ではCT上のすりガラス濃度(GGO)を指標に画像的な非浸潤癌を定義した.その定義に基づき行われた肺葉切除に対する縮小切除の役割を問うJCOGの2つの多施設共同前向き試験の結果が出そろったのが今年である.最新の結果を踏まえて,今後の展開を議論したい.
PSY-4 浸潤巣を意識した肺腺癌の画像診断 Up To Date [演者] 梁川 雅弘:大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室
CTやArtificial intelligence(AI)技術の進歩に伴い,肺癌の画像診断においても様々な分野で研究やシステム開発が進んできている.しかしながら,本学術集会テーマ「back to basics」が示すように,肺腺癌の画像診断においても,原点に立ち返って考えることは重要である.近年,定量化の時代になりつつあるが,病理組織像とCT画像の対比は,放射線科領域の研究の基礎でもあり,忘れてはならない手法のひとつでもある.本シンポジウムでは,最初に,薄層CT画像の充実成分径と病理学的浸潤径をダイレクトに対比検討した多施設共同研究の結果を再度お伝えし,浸潤巣を意識したCT分類について言及したい.次いで,ここ約20年間でCTの空間分解能に著しい進化をもたらした超高精細CTについて簡単に紹介し,最大空間分解能0.15mmを用いた肺腺癌の微細な形態学的所見と病理学的浸潤巣の関係を検討した結果についても紹介する.超高精細CTを用いることで,CT充実成分径0.8cm以上および細気管支透亮像の途絶所見が,肺腺癌の病理学的浸潤成分を予測する上で重要な因子であることが判明した.超高精細CTの空間分解能向上は,形態評価のみならず定量評価にも今後大きな影響を与える可能性を秘めている.そして,最後に,トレンドであるAI技術を用いた肺腺癌の診断能とAI技術が放射線科医の診断能に与える影響についても簡単に触れておきたい.本シンポジウムが,肺癌の画像診断に関する知識の整理や明日からの臨床・研究面において一助となれば幸いである.

0 件のコメント:

コメントを投稿