2024年6月30日日曜日

『千年の愉楽』(せんねんのゆらく)

千年の愉楽』(せんねんのゆらく)は、中上健次の連作短編集。1980年7月から1982年4月にかけて「文藝」に掲載、1982年昭和57年)8月河出書房新社から刊行。1992年10月、同社より文庫版刊行。若松孝二・監督で映画化、2013年に公開。
作品の舞台は和歌山県新宮市の「路地」と呼ばれる被差別部落である。「中本の一統」と称される高貴にして穢れた血に生まれて早死にを宿命づけられた若者たちの刹那的な生き様を「路地」に住まう全ての人の生き死にを記憶している産婆オリュウノオバの目を通して神話的に語られる。
映画で描かれたのは短編集の中の次の2篇。
半蔵の鳥:美男の血統である中本の一統の中でも群を抜いて男振りの良い半蔵は、中本の淫蕩な血に突き動かされるままに女遊びを繰り返す。しまいにはそのことで怨恨を買って男から後ろから刺されて死ぬ。
六道の辻:中本の一統の三好は、盗人などをして暮らしている。ヒロポンを打ち、ダンスホールや玉突き場で遊び暮らすが、ある時、殺人を犯してしまう。三好は身を隠すように飯場で働き始める。それからほどなく、若くして失明して、絶望して縊死する。
亀井文夫の 人間みな兄弟 部落差別の記録 1960年でも和歌山の新宮地区がちらりと映されている。海に面した斜面に密集して立つ集落が、この映画でも描かれている。19歳の地図、青春の殺人者、18歳 海へ、赤い髪の女、軽蔑など、中上健次の映画化作品を見ているが、路地と家系とオバを最も現実感を持って見せてもらった。今村昌平の神々の深き欲望や黒木和雄の祭りの準備などを連想した。オバは集落全体を包む母性であろう。子を暖かく見守り、正しい道を諭すが、それよりも血筋が勝る。若者たちは、飛び出したくなり、戻りたくもなる。
  • 1976年『青春の殺人者』 長谷川和彦監督(原作: 蛇淫)
  • 1979年『赫い髪の女』神代辰巳監督(原作: 赫髪)
  • 1979年『十八歳、海へ』藤田敏八監督(原作: 隆男と美津子)
  • 1979年『十九歳の地図』 柳町光男監督
  • 1985年『火まつり』 柳町光男監督(オリジナル脚本、後に小説化)
  • 2011年 『軽蔑』 廣木隆一監督
  • 2012年 『千年の愉楽』若松孝二監督

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