カムイ外伝はカムイ伝のスピンオフストーリーです。カムイ伝の狂言回し的な登場人物の抜忍カムイの追手忍者との戦いを描いた忍術合戦ですが、当時、「スガルの島」は異色でした。元来、白土マンガはエロティックです。静寂の中に色気があります。「スガルの島」ではカムイの恋心と、必然として生じる感情の爆発がストレートに描かれ、異質の魅力がありました。
いま見ると、実写版はカムイの甘さが目立ちます。絶えず周囲を観察している野生の姿、寡黙さがありません。また、原作の衣装とは異なり、衣服の差別化がないため集団の中で目立ちません。
原作漫画の活劇のスピード感がありません。ストーリーが翻案されたボーンアイデンティティがスピーディーな活劇映画になっている今となっては、アクションの遅さが致命的です。アニメのほうがスピード感がありました。
白戸漫画の忍者は「猫の動き」です。俊敏に動いて、ピタッと止まる。地面を這って周囲を窺う。漫画ではサスケの猿飛の術はストロボ撮影のような工夫で見せました。大島渚の忍者武芸帳は漫画をうまく使って動きと静寂の表現を試みました。
最近の「るろうに剣心」の新しいスピード感には圧倒されました。日本でも工夫すればボーンの活劇に近づけるようなスピード感が出せるんですね。今なら体操選手のような動きを実写で見せるような工夫もできるでしょう。今ではTV中継で体操選手やスケート選手などの様々なアスリートたちの映像がリアルに見れてしまうので、よっぽどうまく作らないと嘘っぽくなってしまうでしょう。
忍者は闇の中に潜む者です。映画は明るい場面が多すぎたようです。もっと暗くしてカムイの技と知恵の卓越性を描くべきだったでしょう。冒頭にカムイの秘術を説明的に描きますが、むしろ非人という出自と時代背景の説明がほしいと思いました。侍が全て下劣という、低俗な描き方も定型的すぎます。冷徹な切れ者の武士もいるはずです。原作の持つ差別と階級闘争が描かれないのが不満です。
白土漫画の魅力は歴史や風土の描き方です。経験と取材で得たリアルな自然と生活が描かれます。映画にはすべての背景が写し撮られます。ディテイルの積み上げが足りなかったと思います。
最後の鮫のエピソードはカットされていました。サスケのTV版でも原作の残酷なラストはカットされています。白土三平が繰り返し描いた非情な結末にこそ、集団であれ個人であれ、善悪なく、人間もまた自然の中の一部であるというテーマが明確に示されます。勧善懲悪ではなく、虚無感と復讐の連鎖へと続く不安を残す締め方を見たかったと感じました。
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