「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンドが主演を務め、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に「ザ・ライダー」で高く評価された新鋭クロエ・ジャオ監督がメガホンをとった。
NHK BSのドキュメンタリー番組のように淡々と綴られてゆく。夫に先立たれ、職を終えた60代女性の日常。キャンピングカーに全てを詰め込み、“現代のノマド(遊牧民)”として、車上生活を送りながら、季節労働の現場を渡り歩く。
日々の収入を得ることよりも日々の職を通して生きる糧を得ているような生き方。汚れ仕事を厭わずに楽しんで行う姿には、収入だけではなく奉仕する満足感と誇りも感じさせる。
渡り鳥のように職を求めて大陸を移動してゆく。それぞれが個としての生き方。小細胞性肺がん患者もまた同じようにノマド生活を送っている。働けなくなったら死が待っていることを受容して生きている。
自分たちはパイオニアだという。あくまでも先駆者としての自信に溢れている。目の前の荒涼たる自然に立ち向かうパイオニアとしての誇り。確かに、現代の先進国では、この集団がいなければ社会は回らなくなってしまうだろう。
高齢者の非正規雇用の課題や、またそれに依存する社会を、決して暗くならずに描いている。イージーライダーやキャンディに始まったアメリカンニューシネマ時代のロードムービーの漂流した先の到達点のようにも思える。決して暗くなく、むしろ誇りと尊厳、決意を感じさせる。土地に縛られず、働きながら生活をエンジョイしていく、ワークライフバランスの最もシンプルなスタイルに、物が多くなりすぎた現在のわれわれの生き方を振り返るきっかけになる映画である。
2020年・第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞するなど高い評価を獲得。第78回ゴールデングローブ賞でも作品賞や監督賞を受賞。第93回アカデミー賞で作品、監督、主演女優など6部門でノミネートされ、見事受賞しました。
2020年製作/108分/G/アメリカ 原題:Nomadland 配給:ディズニー。
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