2020年5月18日月曜日

映画監督 羽仁進の世界

ETV特集▽映画監督 羽仁進の世界~すべては“教室の子供たち”からはじまった~[Eテレ] 2020年5月9日(土) 午後11:00~午前0:00(60分)
「いま世界的な再評価が進んでいる映画監督・羽仁進91歳。戦後日本のドキュメンタリーに革命を起こしたと言われる『教室の子供たち』や、黒沢明の『用心棒』をおさえてキネマ旬報第一位に輝いた『不良少年』など、常識にとらわれない斬新な作品を世に送り出してきた。その試みは、日本初のヌーベルヴァーグとも言われ、多くの映像作家に影響を与えた。その一人である是枝裕和監督と共に羽仁作品の革新性をひもといていく。」
監督のひょうひょうとしたお姿と代表作の断片とを紹介しながら羽仁作品の意義を解説した番組です。映像とは何かということを考えさせる面白い番組でした。
エイゼンシュタインが確立したモンタージュの手法を用いた映画文法をもって主体的に作品を作るという映画芸術の発展・進化と逆行するように、作者の作為を排除し、長回しや隠し撮りのような「あるがままの空気感」をそのまま映し出した映像はいつまでも新鮮です。もちろん作者の精緻な(あるいは、したたかな)計算があるとは思いますが、そう思わせない「自然な空気」があります。作為的なモンタージュがないことが、逆説的に「空気感」を作り出しています。 面白いですね。「空気」を写し取ったドキュメンタリーといえそうです。
最近のインターネットは便利になりましたね。放送の後に、「教室の子供たち」(1955年、岩波映画)と「絵を描く子どもたち」(1956年、岩波映画)をyoutubeで見ることができました。映画評論でしか聞いたことがなかったこれらの伝説の映画をこの放送がきっかけで実際に見ることができたことがとても幸せです。
ドキュメンタリーというと、現在、わたしたちが日常の中でもっとも目にする機会が多いのが、ニュース番組のインタビューでしょう。現在のデジタル画像技術の進化はいくらでも長回しが可能になりました。自動追尾も可能になりました。しかし、現代人のせっかちさ故か、羽仁作品のような「空気感を写し取ろうという意図」は排除されています。ニュースのインタビューでは役に立つ部分のみ細切れを繋いで放送します。さらにご丁寧に字幕を付けることで本人の本人らしささえ排除します。 文字のみに伝えたいメッセージがあり、それ以外の空気は読むなという拙速な姿勢すら感じさせます。
羽仁映画の視線のように、興味を持って対象を観察を続ける姿勢が現代は失われているようです。せっかく、機器が安価で進化しているというのに、観察対象に興味を持つ気持ちがなくなってきているように思えます。

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