2024年4月4日木曜日

オッペンハイマー

地域・時間軸がバラバラで、事実と記憶と幻想が入り混じり、カラーとモノクロの映画の構成と博士の混乱が見るものをも混乱させる。過去の記憶の幻想など多層化されたシーンも含まれているのかもしれない。散在する光の点が収束していく様や、乗っている車を遠く追い越してゆくV2ロケットなど博士の心情の起伏が美しく映し出されている。それに反して、作為的に尊厳を踏みにじる赤狩りの卑劣さ、胸クソ悪さは、フランケンハイマーのフィクサーを連想した。神経質で常に不安げでありながらも、大胆な決断をしてしまう。そして、自分の出した決断に揺れる世間知らずの天才物理学者。バラバラのものをまとめることのできる定理を発見するのが学問であり、仮説を実験で実証することまでがいわゆる研究でしょうか? 現実社会や人、自然との関連まで想起し、研究の是非を自己調整することが学者に必要なのでしょうか? 人類初のトリニティ実験の成功により、核の開発は露骨に軍主導になります。オッペンハイマーはずいぶん悩んでいるように見えますが、国家は必要とされる成果をほしいのであり、悩む学者の存在などどうでもいいようです。国家の意向に沿わなくなったら不要とされる。対ナチとして原爆の開発を進めさせながら、実は対ソ連の道具と考えていることに、このような科学技術が世界戦略のカードの1枚に過ぎないことがわかります。社会実装の段階は、研究成果はすでに研究者の手から離れ、国や組織に決定権が移されることになってしまうのでしょう。

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